【弁護士が徹底解説】デジタル時代の株主総会・運営術 <セミナーレポート・後編>
株主管理・経営管理プラットフォーム「FUNDOOR(ファンドア)」を運営する株式会社FUNDIINOでは、定期的に起業家向けセミナーを開催しています。今回は、「デジタル時代の株主総会運営術を徹底解説」と題して、オンラインセミナーを開催しました。登壇者は、梅田総合法律事務所パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士の西口健太さんです。
本記事では、セミナー・後編お届けします。セミナー・前編はこちらご覧ください。
後編のパネルディスカッションで聞き手を務めるのは、弊社FUNDOOR事業部の井口です。
目次:
質問1:メールやチャットツールで招集通知を送るために、何か特別な手続きは必要でしょうか?
井口:
私も株主総会をDXできるプロダクトを作らせていただいているのですが、よくいただく質問を事前にピックアップしておりますので、皆様から質問が出てくるまではこちらの方で進めさせていただきます。
まず1つ目の質問です。「メールやチャットツールで招集通知を送るために、特別な手続きが必要でしょうか?」という質問です。先ほどご説明があったかと思いますが、ご回答をお願いします。
西口さん:
まずは、取締役会を設置している会社か、設置していない会社かで違います。 取締役会を設置していない会社の場合、基本的に特別な手続きなく、メールやチャットで招集通知を送れます。一方で、取締役会を設置している会社の場合、原則書面で送る必要があり、メールやチャットで招集通知を送る際は、事前に株主の方とメールなどで「招集通知をメール/チャットで送ってもよいか」を確認しておく必要があります。
井口さんからもzoomのチャットで「取締役会を設置する会社に切り替わったタイミングが落とし穴になりそうですね」というコメントをいただいておりますが、まさにそうです。多くの場合、スタートアップはシリーズAが終わった段階などで取締役会設置会社に切り替わることが多いです。そのような時に、今までと同じではなく、先ほど述べたような一手間が必要になることは覚えておいていただきたいと思います。
井口:
ありがとうございます。取締役会設置後に株主総会を行う場合、事前承諾を得る必要があることを今改めて認識した方もいらっしゃるかもしれません。この事前承認のやり方で悩む方も多いと思われます。実務上、どのように行われている方が多いのでしょうか?
西口さん:
投資契約書等で予め決めてあれば1番分かりやすいと思いますが、投資契約書等にその旨が入っていることは少ないと思いますので、主に株主さんとメールでやり取りして承諾を得るケースが多いと思います。
井口:
電話ではなくメールで事前にやり取りし、文章を残すようにすることが大事なのですね。
西口さん:
そうですね。文章だと証拠が残りますし、会社法施行令では書面や電磁的記録でやり取りして同意を得るということになっていますので、電話は不可です。
井口:
ありがとうございます。事前に承諾を得るためにも、時間に余裕を持って株主総会の開催の準備を進めていく必要があるという点、取締役会設置会社の方は気をつけなければいけないですね。
それでは、2つ目のご質問に移らせて頂きます。
質問2:招集通知をメールで発送しても法的に問題はないか、また送信できていなかった場合は株主総会が無効になってしまうのでしょうか?
井口:
招集通知をメールで発送しても法的には問題ないのでしょうか?先ほどのご説明では問題ないという回答が得られたと思いますが、 「メールアドレスが誤っていた場合やサーバーがエラーで誰かに送信できていなかった場合に、 株主総会は無効になってしまうのでしょうか?」という問い合わせはいかがでしょうか。
西口さん:
この件は、メールアドレスが誤っていた原因が企業(送信者側)にある場合と、株主(受信者側)のミスによる場合の2つあると思います。例えば、株主名簿に登録する事項として、株主さんにメールアドレスを伝えていただいたものの、それが間違っていたというケースもあり得ます。
株主さんのミスでメールアドレスが間違っていた場合は、企業側に責任はありません。ただし、企業側がミスをした場合は、企業側に責任があります。サーバーのエラーは難しいところですが、企業側の事情の場合が多いと思われますので、基本的には企業側に責任があるでしょう。
企業側に責任があるとはどういうことかというと、例えば、株主さんのうち4割ぐらいの株主さんにミスで招集通知を送れなかった場合、これは株主総会が無効となり、当然無いものになってしまいます。つまり、大部分に送れてなかった場合は無効ということになります。
一方、例えば1人だけに送れていなかった場合は、無効ではなく取り消しが可能かもしれないということになります。株主さんが「その株主総会は取り消されるべきである」という訴訟を起こし、その請求が裁判所によって認められると株主総会が取り消しされるという形になります。
段々ややマニアックな話になってきたのですが、メールが一件送れていなかった場合、必ず取り消しになるわけではありません。手続きに問題があったもののそれが大した問題ではなく、その問題で何か結果が変わったわけではないという時には、株主総会が取り消されないということもあり得ます。その判断は、裁判所でされます。
株主さんが招集通知を受け取っていなかった場合、株主さんとしては株主総会に参加する機会が全く無かったという話になるため、これは取り消し対象になる可能性があります。ただし、その株主さんが裁判を起こさなければ問題ありません。
いずれにしても、こちらのミスでメールが送れないケースはそのようなリスクがあるので、注意していただきたいと思います。
井口:
ありがとうございます。大部分の株主さんに送れてないなどの事情があった際は株主総会自体無効になるかもしれないですが、少数の方に送れていない場合はその株主さんからの訴訟等がない限り一応有効であるということですね。
西口さん:
そうですね。訴訟等で取り消しがされるまでは、有効ということですね。
いずれにしても、ご注意下さい。
井口:
ありがとうございます。やや難しい箇所もありましたが、やはり実務上で起こりうるような気になる部分もあったかと思います。ぜひ皆様には、記憶の片隅にでも置いていただけたら良いのではないかなと思います。
質問3:チャットツールで招集通知を送信することも許容されるのでしょうか?
井口:
では、最後の質問です。招集通知の手段として、メールだけではなくチャットツールも可能なのか、という質問になります。 こちらについてはいかがでしょうか。
西口さん:
こちらも先程と同じです。メールで出来る場合は、チャットでもできることになります。
井口:
ありがとうございます。チャットツールでも特に問題無いということで、皆様がバーチャルで開催する際にご利用されても大丈夫かと思います。
参加者からの追加Q&A
井口:
追加で参加者の方から質問をいただきました。「バーチャル株主総会や海外での具体例などありますか?海外ではどのようにバーチャル株主総会が行われているのか気になります」、ということですがいかがでしょうか?
西口さん:
国によってはバーチャル株主総会が普及している国も確かにあります。日本は比較的厳しい方だと思いますね。海外の方が進んでいる感覚があります。
実際にデータを見てみると、例えばアメリカではバーチャル株主総会はかなり増えており、2019年くらいまで300件ほどだったのですが、2020年では2000件ほどに増加していました。しかも、ほとんどがバーチャルオンリー型です。州によって規制が異なりますが、バーチャルオンリー型がほとんどで、日本とはだいぶ異なる状況みたいです。
井口:
一気に約7倍とはすごい増え方ですね。バーチャルオンリーが認められた時に、急激に増加したのでしょうか?
西口さん:
考えられるのはコロナでしょうね。コロナをきっかけに、バーチャルオンリーでも可能なように、おそらくニューヨーク州などが規制を変えたのだと思います。
井口:
今のお話を聞いて、バーチャルオンリーが続々と増えているという現状を踏まえると、日本でもそれが許可されていくような未来が結構近いのかもしれないという気持ちがより高まりました。
ちなみに、日本でバーチャル株主総会が厳しい理由として、歴史的な背景もあるのでしょうか?よく日本の金融商品取引法は厳しいと聞きますが、会社法も同様なのか気になります。
西口さん:
会社法の場合は、物理的な場所を招集通知で書くことになっており、オンラインで行うことが想定されていなかったと思います。これは、歴史的な背景があるというより、古い視点のままであることが問題なので、今後変わっていく可能性は十分あると思います。
井口:
現場に合わせての法改正ができていない状態ということなので、 法改正でこのあたりが緩和されれば、バーチャルオンリーで開催できるようになる未来ももしかしたら近いのかもしれないですね。
西口さん:
そうですね。株主さんとしてはリアルで参加したいというご要望も結構あると思われます。バランスが大切だとは思いますが、バーチャルオンリーでできる流れになっていくのだろうとは思いますね。
井口:
確かにそうですね。実際に参加したい株主さんもいらっしゃるとは思いますが、会社としては手続きを楽にしたい部分もあるので、そこは柔軟に対応できるような改正が行われることを待ちたいところですね。
西口さん:
あとは、デジタルデバイドといいまして、インターネットを使える人と使えない人の格差みたいな話もあるので、そのあたりにも配慮は必要だろうと思います。例えば、私が支援しているような上場企業等の場合、参加している株主さんの大部分が結構年配の方という場合もあるので、なおさらそのように思います。
井口:
ありがとうございます。最後に、招集通知を送付するのは2週間前が原則というルールがあると思いますが、非公開会社やスタートアップの場合、1週間前が多く見受けられます。この書面決議ですと、そのような期限が決まっていないことも大きな特徴としてあげられますか?
西口さん:
おっしゃる通りです。株主さん全員の同意を得れば、招集通知を発送する場合の期限を短くできます。ただ、株主全員の同意を得られるのであれば、書面決議を行えばよいという話になり、この書面決議なら署名さえ集まればすぐに手続きが完了します。
井口:
「トライしてみて、全員から(書面決議の)同意をもらえなかった際は、実際に開催するしかないという流れですね」というコメントをいただきました。
西口さん:
おっしゃる通りですが、書面決議を行おうと思って誰かに反対されたら、手続きを変えなければなりません。そのため、あらかじめ書面決議でやってよいか株主さんに打診しておいてからやる方がいいでしょうね。
井口:
ちなみに、書面決議で事前に同意を得るのは、どのタイミングで行う会社が多いのでしょうか?
西口さん:
場合によりますが、決議事項が何かが固まっていないと打診もしようがないですから、何を決議するかが固まったら書面決議を打診し、内諾が得られれば、書面決議用の提案書や同意書を送るという流れになります。スタートアップでは、例えば「明後日に株主総会をしたいですが」という相談をすることもあり得ると思います。
井口:
先ほどの期限の設定がないという点は、それも可能になるということですね。ありがとうございます。では、お時間も近づいてきましたので、ここでQ&Aは以上にさせて頂きます。
◼︎登壇者プロフィール
西口 健太(にしぐち・けんた)氏
弁護士・ニューヨーク州弁護士(梅田総合法律事務所パートナー弁護士)
訴訟を含めた企業法務全般を取り扱うも、世界に挑戦できるスタートアップの支援に力を入れるため、米国西海岸のロースクールへ留学。その後、米国シリコンバレーのアクセラレーター/ベンチャーキャピタルであるPlug and Playに出向し、米国スタートアップへの投資案件、同社の日本における投資スキームの検討・立案などに携わる。また、米国法律事務所やイスラエルのベンチャーキャピタルにも出向し、スタートアップへの投資案件に従事。
現在では国際案件への対応も含め日本で弁護士として活躍。スタートアップ側及びベンチャーキャピタル・CVC側の双方でエクイティ・ファイナンスの支援に力を入れている。スタートアップの顧問弁護士としての法務機能のアウトソーシングを含めた法的支援のほか、上場企業の株主総会指導なども行っている。
◼︎モデレーター
株式会社FUNDINNO FUNDOOR事業部 井口裕磨
FUNDOOR プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)
学生時代に公認会計士試験に合格後、 コンサルティング会社にてベンチャー企業の事業計画作成支援業務や、教育系ベンチャー企業にて経理・マーケティング業務を経験。 後に監査法人にて、上場企業や上場準備企業の会計監査業務に従事。
挑戦するベンチャー起業家を応援したい想いから、2021年9月に株式会社FUNDINNOに参画。株主総会・取締役会のDXなどを実現する「株主管理・経営管理プラットフォームFUNDOOR」を運営するFUNDOOR事業部に従事。
現在、プロダクトマーケティングマネージャーとして、プロダクトマネジメントからビジネスサイドとの連携までおこなう。
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執筆:根本
※セミナー時点での法令等をふまえた内容ですので、実際の株主総会の手続きの際は最新の法令等をご確認ください。また、時間に限りのあるセミナーという媒体の関係上、内容の網羅性を保証するものではなく、本稿に記載のない留意点等も多くありますので、必要に応じて顧問弁護士等に相談をして手続きを進めてください。
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FUNDOORで提供いたします各種ひな型につきましては、2020年11月1日時点で施行されている会社法、会社法施行規則およびその他の関係諸法令ならびに各種ガイドライン等に基づいて作成し、弁護士の監修を受けております。
もっとも、FUNDOORで提供している各種ひな型につきましては、標準的な内容を記載しているため、必ずしも各会社様の個別具体的なご事情を反映した内容になっていない可能性がございます。また、法令等の改正、解釈等によっては、FUNDOORを利用して作成した書面が無効と判断される可能性は否定できず、必ずしもその有効性を保証するものではございません。
そのため、各会社様におかれましては、上記内容を十分にご理解いただき、必要に応じて弁護士に相談されるなど、各会社様の責任と負担においてご利用いただけますようお願い申し上げます。
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