【弁護士が徹底解説】デジタル時代の株主総会・運営術 <セミナーレポート・前編>
株主管理・経営管理プラットフォーム「FUNDOOR(ファンドア)」を運営する株式会社FUNDIINOでは定期的に起業家向けセミナーを開催しています。今回は、「デジタル時代の株主総会運営術を徹底解説」と題して、オンラインセミナーを開催しました。登壇者は、梅田総合法律事務所パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士の西口健太さんです。
セミナーの内容を、前編と後編に分けてお届けします。
目次:
セミナーの目標とアジェンダ
西口さん:
今日のセミナーを通して何が得られるか、その獲得目標ですが、まず、株主総会の基本的なところを簡単に抑えます。その上で、この手続きをデジタル化するためにはどうしたらよいかを皆さんに知って頂くことが目標です。
したがって、まずは株主総会基礎知識、次に招集手続きなどをデジタル化するにはどうすればいいのかについてお話して、最後にバーチャル株主総会についてお話しするという流れを予定しています。
テーマの都合上、手続き的な話が多くなりがちですが、大事な箇所も多いため、ポイントだけでもおさえて頂けますと幸いです。それでは早速、株主総会の基礎知識から始めたいと思います。
株主総会の基礎知識
どんな時に株主総会が必要なのか
西口さん:
そもそもどういう場合に株主総会が必要なのかといいますと(取締役会がある会社かどうかによって差はありますが)、基本的には、会社の大事な基礎部分に変更がある場合や定款変更をする場合、合併や会社分割をするという場合、そして取締役を選任したり、取締役を解任したりするという場合等に必要です。
意外と忘れやすいのが、取締役の報酬を決める際にも株主総会が必要であるという点です。中小企業などは、社長の報酬について、株主総会決議をとることなく進めてきたというような場合も多いので、ご注意頂きたいですね。
事業年度ごとに株主総会がいるという話に関してですが、これを定時株主総会と言います。毎年一定の時期に株主総会を開く必要があります。 実務上、事業年度が終わってから3か月以内に、定時株主総会を開く場合が多いですね。主な内容は、計算書類を承認してもらい、事業報告をすることです。
しかし、取締役の任期が大体2年の場合も多いので、そのような場合は任期が切れるタイミングで、定時株主総会で同時に改めて取締役を選ぶことも多いです。 さらにいうと、取締役を任期切れになる前にきちんともう1回選ぶということも皆さん結構忘れがちですので、ご注意頂ければと思います。
開催する際の流れ(実開催)
西口さん:
では、株主総会を開くときはどのような流れで行うのか説明していきます。
原則的な流れとして、まずは取締役会がある会社では取締役会、取締役会が無い会社では取締役の過半数で株主総会を招集することを決定します。 株主さんに対して、招集通知と、委任状を送ります。委任状というのは、株主さんが、議決権の行使を代表取締役等に委ねるものです。
招集通知については、上場企業以外は、原則として中7日開けるように送る必要があります。株主全員の同意があれば、これを短縮あるいは省略することも可能です。 その上で、実際に株主総会を開き、株主総会が無事に終了したら株主総会の議事録を作るというのが原則的な流れとなります。
ただし、例外として、書面決議などの株主総会の開き方もあります。これは、株主全員が株主総会で決議する事項に書面か電磁的記録で同意した場合、株主総会を実際に開く必要がなくなるというものです。この場合は、書面だけで株主総会の手続きが完結するため、非常にシンプルに総会の決議が取れるということになります。
今、例外と申しましたが、スタートアップではむしろ、こちらの方がメインでもあります。スタートアップだと、株主が何人かいるのみ(ベンチャーキャピタルなど)という場合も多く、そういう場合には簡単に株主全員からこの同意が取れるので、書面決議をよく使います。
一方で、株主数が非常に多くなってくると、株主全員の同意を取るというのはなかなか難しくなってきます。そのような場合には、書面決議は使いづらいです。ちなみに、毎年開く定時株主総会も、実は書面決議で行うことができます。ただし、普段、書面決議を使っているようなスタートアップでも、定時株主総会は書面決議ではなく実開催する方が多い印象ですね。
これにはいくつか要因があると思われます。例えば、定時株主総会を書面決議で行おうと考えると、事業報告をきちんと書面にして、株主にあらかじめ送る必要があります。そのため、事業報告をどう書くかのような悩みが出てきたりします。その反面、実開催すると、そのあたりの負担が減るため、定時株主総会は実開催するというスタートアップも結構多いですね。
書面決議
西口さん:
この書面決議をする際に、株主総会がどんな流れになるのかというと、取締役会か取締の過半数で株主総会の招集を決定するというのは同じです。 その後に、会社の方から提案書と同意書を株主さんに対して送ります。
それが届いたら、株主さんは同意書を返送するという流れですね。株主全員からその同意書が返送されたら、それで株主総会は完了です。実際に株主総会を開くことなく、株主総会議事録を作れば完了ということになります。
以上が書面決議の場合の株主総会の流れになります。
招集手続きなどのデジタル化
西口さん:
以上の内容を踏まえて、次は、それぞれの手続きの部分をどうすればデジタル化できるかというところに焦点を当てたいと思います。
必要な書類
西口さん:
先ほどお話しした通り、株主総会に関する手続きに必要な書類は、実際に株主総会を開催するというパターンだと、招集通知と委任状というものがありました。 例外として書面決議も可能ですが、この場合は提案書や同意書という書類が必要になってきます。では、これらの書類はそれぞれデジタル化できるのでしょうか。この点についてお話ししていきたいと思います。
招集通知
西口さん:
まずは招集通知です。株主総会を実際に開く際の招集通知は株主さんに送るもの ですが、この招集通知については、取締役会がある会社かない会社かによって、手続きが少し変わってきます。
まず、取締役会がない会社の場合ですが、招集通知をどのように送るかの規定は会社法上ありません。したがって、メールやSlackなどのチャットツールを使用して招集通知を送ることも可能です。
極端な例を出すと、電話でも構わない訳ですが、形が残らない方法で行ってしまうと、後で、招集通知を本当に送ったのかという争いになった時に、証拠がないということになりかねません。ですから、電話などの口頭は避けるべきですね。メールやSlackなど、何か形が残る形でやる方がいいと思います。
次に、取締役会がある会社についてです。こちらの場合、招集通知は、原則、書面で行う必要があるということになっています。ただ、例外として、会社法施行令上、一定の場合には、電磁的方法で行うことができます。
具体的には、あらかじめ、用いる電磁的方法の種類または内容を示し、書面または電磁的方法による株主の承諾を得るという流れです。つまり、事前に招集通知をメール等で送って良いかを株主さんに聞き、株主さんがそのメールに返信するような形で承諾するというやり取りをしていれば、その後、招集通知を、メールやSlackでも送ることができるということになります。
以上のことから、取締役会がある会社では、そういう一手間が必要だということは覚えて頂きたいですね。
ちなみに取締役会がある会社で、株主から承諾を得る方法は、他にも考えられます。例えばスタートアップだと、ベンチャーキャピタルから投資を受ける時に、投資契約書が必要ですが、その投資契約書の中に「招集通知はこういう方法でやります」という内容を書いておけば、それでも可能というわけです。いずれにせよ、株主さんの承諾を書面なりメールで得ておくことが大切です。
委任状
西口さん:
次は委任状ですね。委任状というのは、株主が会社に対して、議決権の行使を代表取締役等に任せますということを示すためのものです。
これも原則、書面で行う必要がありますが、あらかじめ書面かメールで事前に株主さんと会社の間で合意しておくというひと手間を踏んでおけば、その後株主さんからメール等で委任状を会社に対して送ってもらってよいということになります。
書面決議の提案書・同意書
西口さん:
さて、次は書面決議をする際の書類について、整理していきたいと思います。書面決議をする時には、会社から提案書と、株主さんに返送してもらうための同意書というのを送ります。
これをデジタル化するための手順としては、株主総会で決議する内容を会社から送り、それに対して全ての株主が書面か電磁的記録で同意をすれば、書面決議ができるということになります。
つまり、メールやSlack等で、会社から提案書や同意書を送り、それに対して株主さんから同様に返信して頂けば、その同意書を返送してもらったことと同義ということになります。同意書をメールで返信してもらう際に、何個か方法があります。
例えば、電子契約サービスで電子署名をしてもらい返してもらう方法や、同意書に押印したのをpdf化してもらい、そのpdfをメール添付で送ってもらうというような方法も実際にとられているところです。 証拠や資料として残すという観点では、メール本文にベタ打ちではなく、きちんとした同意書を、pdfあるいは電子署名してもらう形でもらった方がよいでしょう。
まとめ
西口さん:
まとめると、株主総会に必要な書類というのは、基本的に全部デジタル化できるのです。ただし、ご注意いただきたいのは、例えば、取締役会がある会社での招集通知や委任状などは、事前に会社と株主間でメール等にて送ることに合意を取っておくという一手間をかける必要があるという点です。以上が株主総会のデジタル化に関しての内容になります。
バーチャル株主総会
西口さん:
デジタル化の流れで、バーチャル株主総会について、最後にお話ししておきたいと思います。
バーチャル株主総会とは
西口さん:
バーチャル株主総会とは、オンラインで、株主が参加または出席できる株主総会のことです。コロナが広がって以来、上場企業を中心に一気に開催される機会が増えました。上場企業では、かなりの割合で導入されています。スタートアップでも、「バーチャル株主総会をできますか」という問い合わせをたまに頂くことがありますね。
このバーチャル株主総会ですが、実は、注意点もいくつかありますので、その辺をまず整理していきましょう。
注意点1
西口さん:
バーチャル株主総会の注意点その1です。バーチャル株主総会と聞くと、なんとなくオンラインで全部完結するというイメージを持たれる方が多いかと思います。しかし、実際は今の段階では会社法の制約があり、物理的な開催をしないバーチャルオンリーの株主総会というのは、認められないと考えられています。
したがって、バーチャル株主総会をやる場合、物理的な会場を確保した上で、そこにオンライン上からも株主に参加または出席してもらえるようにするという、ハイブリッド型のバーチャル株主総会だけが可能ということになります。
特にスタートアップで勘違いされる方が多いのですが、物理的な会場を確保しないでバーチャル株主総会を行ってしまうという話をよく聞くので、ここはよくご注意下さい。物理的な会場(会議室など)を確保して、物理的な会場の詳細を招集通知にも書くことが必要です。
ちなみに、上場企業に関しては、産業競争力強化法により、例外的に、経産大臣の確認を受けるなどの一定の手続きを踏むと、バーチャルオンリーで株主を開催できるようになりつつあります。もしかすると今後、会社法が変わり、バーチャルオンリー株主総会がスタートアップ等でもできるようになるかもしれません。ただ、現状は、物理的な会場を確保する必要があるという点にご注意ください。
注意点2
西口さん:
バーチャル株主総会の注意点その2です。バーチャル株主総会と一言で言っても、「参加型」と「出席型」の2つあるという点です。
まず、「参加型」バーチャル株主総会とは、株主は株主総会の中継をオンラインで視聴できますが、オンライン上で議決権を行使することや質問をすることができません。つまり、議決権の行使や質問などができないというのが「参加型」であり、ただ株主総会を見ているだけというものですね。
一方で、「出席型」バーチャル株主総会とは、株主はオンラインで株主総会に出席し、議決権の行使や質問がオンライン上で可能なものを指します。つまり、「出席型」のバーチャル株主総会の場合、物理的に株主総会に出ている人と同じ権利行使がオンライン上でも可能ということです。
まとめると、今の段階では、バーチャルオンリーの株主総会というのは通常できません。 今できるのは、ハイブリッド型、つまり物理的な場所も確保したバーチャル株主総会だけで、その中でも、参加型と出席型がありますよ、ということになります。
ここでひとつ、出席型の場合についての注意事項です。出席型は、オンライン上で議決権行使や質問が可能である反面、色々と手続きが必要になり注意点が増えてきます。
例えば、本人確認です。このオンライン上で出席している株主さんが本当に株主本人なのかという点が重要なポイントになります。全然違う人がなりすまして出てきているというようなことになると、その権利行使に問題がありますので、本人確認をどうやるかというのを考えておく必要があります。
解決策の例としては、招集通知にIDとパスワードを記載しておき、そのIDやパスワードを入力しないとオンライン参加できないという形にして、本人確認をする場合が比較的多いです。
あとは、出席株主数のカウントですね。何人出席していて、オンライン上で議決権行使した人のうち賛成が何票かというカウントが必要になってきます。株主の人数が多い場合には、出席型だと、運営が複雑になりかねません。そのため上場企業等では、バーチャル株主総会を導入している事例は多いですが、「出席型」まで導入しているケースは比較的稀で、多くの上場企業では単に「参加型」のみ導入していることが多いです。
バーチャル株主総会のうちの「参加型」、つまり、オンライン上の議決権行使ができず動画を視聴するだけの株主総会にする場合には、招集通知の時点で、あくまで参加型なので当日に議決権行使が不可能である旨を伝えることが大切です。 議決権行使したい場合には委任状を提出するなどする必要があるということを伝える必要があるといえます。
注意点3
西口さん:
最後にバーチャル株主総会の注意点その3です。これは、参加する株主の数がおそらく増えるだろうということです。 理由としましては、物理的な開催しかしないとなると、その会場まで足を運ぶ必要がありますが、バーチャル株主総会だと自宅からでも参加できることになりますので、株主総会に参加するハードルがすごく下がります。
ですから、バーチャルであれば参加するという株主の数が、リアルのみの開催の時よりも増えやすいと想像されます。
上場企業等の場合、多くの株主さんに参加して頂き、株主さんに情報発信するのはむしろ望ましいと思いますが、スタートアップや中小企業では、むしろ株主さんの参加人数が増えると、「ちょっとしんどいな」というような時もあるかと思われます。そのような意味で注意が必要ですね。
まとめ
西口さん:
まとめとして、バーチャル株主総会は楽に思われるかもしれませんが、実際は、株主さんの参加人数が増えて逆に面倒になってしまう場合もあるため、できるだけ手間をかけずに株主総会を済ませたい企業さんにとっては、むしろ、書面決議で終わらせる方が楽です。
一方で、「この株主総会の機会を利用して株主さんと積極的に交流したい」、「できるだけ多くの株主さんに来てほしい」という企業だと、バーチャル株主総会を使うメリットもあるのです。
バーチャル株主総会を導入する時には、先ほど申し上げた通り、物理的な会場をしっかりと確保する、会社法上の規制を押さえておく、という点にご注意頂きたいと思います。
<記事後編に続きます>
※近日、公開予定です。
◼︎登壇者プロフィール
西口 健太(にしぐち・けんた)氏
弁護士・ニューヨーク州弁護士(梅田総合法律事務所パートナー弁護士)
訴訟を含めた企業法務全般を取り扱うも、世界に挑戦できるスタートアップの支援に力を入れるため、米国西海岸のロースクールへ留学。その後、米国シリコンバレーのアクセラレーター/ベンチャーキャピタルであるPlug and Playに出向し、米国スタートアップへの投資案件、同社の日本における投資スキームの検討・立案などに携わる。また、米国法律事務所やイスラエルのベンチャーキャピタルにも出向し、スタートアップへの投資案件に従事。
現在では国際案件への対応も含め日本で弁護士として活躍。スタートアップ側及びベンチャーキャピタル・CVC側の双方でエクイティ・ファイナンスの支援に力を入れている。スタートアップの顧問弁護士としての法務機能のアウトソーシングを含めた法的支援のほか、上場企業の株主総会指導なども行っている。
株主管理・経営管理プラットフォーム「FUNDOOR」はこちら
執筆:根本
※セミナー時点での法令等をふまえた内容ですので、実際の株主総会の手続の際は最新の法令等をご確認ください。また、時間に限りのあるセミナーという媒体の関係上、内容の網羅性を保証するものではなく、本稿に記載のない留意点等も多くありますので、必要に応じて顧問弁護士等に相談をして手続を進めてください。
東京都港区芝5-29-11
Contact
FUNDOORで提供いたします各種ひな型につきましては、2020年11月1日時点で施行されている会社法、会社法施行規則およびその他の関係諸法令ならびに各種ガイドライン等に基づいて作成し、弁護士の監修を受けております。
もっとも、FUNDOORで提供している各種ひな型につきましては、標準的な内容を記載しているため、必ずしも各会社様の個別具体的なご事情を反映した内容になっていない可能性がございます。また、法令等の改正、解釈等によっては、FUNDOORを利用して作成した書面が無効と判断される可能性は否定できず、必ずしもその有効性を保証するものではございません。
そのため、各会社様におかれましては、上記内容を十分にご理解いただき、必要に応じて弁護士に相談されるなど、各会社様の責任と負担においてご利用いただけますようお願い申し上げます。
© FUNDINNO, Inc.