スタートアップの人材戦略が変わる。ストックオプション税制改正の活用法とは

ストックオプションは、スタートアップ企業が成長を加速させるための重要なインセンティブ制度です。会社の業績向上が自身の報酬に直結するため、役職員等のモチベーションを高め、優秀な人材の獲得・定着にもつながることが期待されます。
権利を付与された役職員にとって「いつ、どのように権利を行使できるか」は重要な問題です。特に、税負担を大幅に軽減できる「税制適格ストックオプション」は、これまで未上場企業にとって活用しにくいという大きな課題を抱えていました。
税制適格ストックオプションのメリットと実務上の課題
「税制適格ストックオプション」の主な特徴として、以下が挙げられます。
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権利を行使した時に最大約55%の給与所得課税が発生する税制非適格ストックオプションと比較して、税率や負担を大きく抑えられるのがメリットです。
しかし、この税制優遇を受けるには、権利行使で取得した株式を証券会社などに預けて管理してもらう「保管委託要件」を満たす必要があり、未上場企業にとって大きな障壁となっていました。
ストックオプションを行使して株式を取得したとしても、未上場株式は流動性が低く、すぐに売買ができません。そのため、証券会社側には管理を引き受けるメリットが乏しく、実際に委託できる会社は限られていました。加えて、手続きの煩雑さやコストも、多くの企業にとってこの制度の活用を事実上困難なものにしていました。
保管委託要件の緩和により権利行使が現実的に
このような状況の中、令和6年度(2024年)税制改正※において、スタートアップの人材獲得力向上を目的とした見直しが行われ、税制適格ストックオプションの付与対象者拡大や権利行使価額の限度額引き上げなどがなされました。
その中では「保管委託要件」も緩和され、以下の条件を満たせば、証券会社等に委託せず発行会社自身が株式を管理できるようになりました。
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この改正によって、未上場企業が税制適格ストックオプションを活用する上での大きな障壁が取り除かれました。役職員等は税制上のメリットを享受しながら、権利行使をより現実的な選択肢として検討できるようになったのです。
未上場企業におけるストックオプションを活用した新たな人材戦略
近年、東証グロース市場の上場維持基準引き上げについての議論や市況の変化などを背景に、スタートアップが上場(Exit)に至るまでの期間は長期化する傾向にあります。リターンを得るまでの期間が長引くことになるので、役職員にとってはストックオプションの報酬としての魅力が薄れてしまいます。
また、勤続年数が長くなるにつれて、住宅購入や教育資金といったライフイベントでまとまった資金が必要になるケースも増えることが考えられます。
今回の税制改正により、上場を待たずとも、必要なタイミングでストックオプションを行使し、現金化するという選択肢が考えられるようになりました。

さらに、これまでは退職と同時に権利が失効(消滅)する契約が一般的でしたが、今後は在職年数や貢献度に応じて、退職時に権利行使を認めるような柔軟な制度設計もしやすくなるでしょう。このような設計は、創業期から貢献してくれた役職員に報いることにつながり、モチベーションやエンゲージメントの向上に直結します。
また、今回の改正においては、ストックオプション税制の適用対象者を社外の高度専門人材に拡大しました※。エンジニア、弁護士や会計士など一定の要件を満たす専門家に業務を依頼する際に、柔軟なインセンティブ付与を検討できるようになりました。
高額な給料を現金で支払うのが難しい成長初期のスタートアップにとって、ストックオプションは社内外の優秀な人材を採用し、活躍してもらうための重要な施策となります。採用活動において企業の魅力を高めるとともに、事業成長に不可欠な専門家の協力を得やすくなるでしょう。
この制度を戦略的に活用し、事業成長を加速していきましょう。
まとめ
今回の税制改正、特に保管委託要件の緩和により、税制適格ストックオプションの実用性が高まりました。企業はより魅力的なインセンティブ設計ができるようになり、役職員等はその恩恵を実際に受け取ることができる可能性が大きく広がりました。
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