CEOが語る、シリーズB資金調達とコーポレート・ガバナンス【メルティンMMI 粕谷氏】
外部の株主数も増えてくるシリーズA〜Bの資金調達には、アーリー期までの資金調達とは異なる点が投資家から求められます。
本記事では、これから資金調達を迎える企業の方に向けて、医療×ロボティクス分野で事業を展開し、2018年に20.2億円のシリーズBラウンドの調達を行った株式会社メルティンMMI 代表取締役 粕谷昌宏さんへのインタビューをお届けします。
シリーズが進むにつれ変化した資金調達時の難しさや、資金調達後に共に事業を成長させていくための株主との関係性のポイント、コーポレート・ガバナンスまで幅広く体験談を伺いました。
<粕谷昌宏 氏 プロフィール>
1988年生まれ。2002年からサイボーグ技術の研究を開始。2006年に早稲田大学理工学部に入学。大学院では先進理工学研究科で生命理工学を専攻。2013年にMELTINを創業。2016年には電気通信大学大学院情報理工学研究科にてロボット工学と人工知能工学で博士号を取得。
ロボット分野で活躍した35歳未満の研究者に贈られる日本ロボット学会研究奨励賞や数多くの賞を受賞し、2018年にはForbesより世界の注目すべきアジアの30人として選出された。2022年にサイボーグ技術の実用化第一段となる医療機器製品をリリースし、医療と工学の融合に向けて着実に事業を推進している。
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目次:
・起業に至るまでの経緯
・ディープテック×ハードウェア事業の資金調達の難しさ
・シリーズB調達で求められる「数字」とは
・共に事業を成長させていくための株主との関係性
・MELTIN社のコーポレート・ガバナンス
・最後に
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起業に至るまでに経緯
—起業に至るまでの想いや経緯を教えてください。
粕谷さん:
メルティン MMI(以下、MELTIN)では、「サイボーグ技術によって身体と機械が溶け合い、人間の創造性を最大化する」ことを掲げているのですが、僕は医療×ロボティクスの分野、サイボーグ技術に幼い頃から興味があり、自分の人生をそこに捧げたい、逆にいうとそれ以外の時間をあまり投資したくないという感じでしたね。
サイボーグ技術を研究するためにどんな方法があるか考え、大学院博士課程まで進みました。その後、自分のやりたいことに真っ直ぐに向かうには、就職するのでも研究室に残るのでもなく、やりたいことのできる会社を自ら作るのが一番だと思い、起業という選択肢をとりました。
—幼い頃からの情熱を持ち続けて、大学院生のときに起業されたのですね。研究者から起業家になる際、起業や経営に関して新たに必要になる知識も多いと思いますが、資金調達のやり方やセオリーはどのようにして学んだのですか?
粕谷さん:
最初は、株式や資金調達の仕組みやロジックがわからず、自分で株式投資などを行ったりしながら理解を深めようとしましたが、ベンチャーの内側の運営方法についてはそれでは十分わかりませんでした。
資金調達について唯一学んだところがあるとすると、創業して1、2年目に、SRI International(*1)というところで、起業家の勉強をしていました。
そこで、いわゆるシリアルアントレプレナーと呼ばれる人たちに、資金調達に関するノウハウや様々なエピソードを聞かせてもらい、ピッチの場数を踏ませてもらったりしました。
するとだんだん分かってきて、「ファンドの運用期限は10年です」と言われた時に、「この10年の間にどこまでのアウトプットを出さなければいけないのか」という思考を回して事業計画を作るところまで理解できるようになりました。
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(*1) SRI International:米・スタンフォード大学が1946年に設立した、非営利の研究機関。1970年に完全に大学から独立し、アメリカ合衆国の非営利組織として独自の法人となる。政府機関、企業、私立財団などの顧客から研究開発を請け負い、テクノロジーのライセンス提供・戦略的提携・スピンオフ企業の創業なども行っている。(wikipedia参照)
ディープテック×ハードウェア事業の資金調達の難しさ
—今までの資金調達を振り返ってみて、特にシリーズが進むに従って大変だと感じるようになったことはどんなことでしたか?
粕谷さん:
一般的に技術系、ハードウェアベンチャーだと、SaaS系に比べてリターンのサイクルが長いことや、資金調達の金額が多いことなどで、あまり投資家が話を聞いてくれない傾向があると思います。
実際、MELTINでははじめ、筋電義手(ロボットハンド)を開発し扱っていて、当時でもその分野で世界トップレベルになれる技術の自信はあったのですが、いざベンチャー企業として資金調達に挑んだ際に、「義手マーケットがそもそも小さいのでマーケットでトップになれると言われても投資しない」と言われたこともありました。
さらに、シード段階の資金調達時に衝撃だったのは、投資家と話していて、事業の説明で「ハードウェアを扱っています」と言った瞬間に「投資検討外です」と言われたことです。
僕はもともと技術者・研究者から起業家になったので、技術以外のことはあまり知りませんでした。そんななかで、シリーズA,Bの資金調達で、改めて技術以外の部分への評価の厳しさに衝撃を受けました。
シリーズB調達で求められる「数字」とは
—資金調達のシリーズが進むに従って、投資家から求められるポイントはどのように変化していきましたか?
粕谷さん:
シードの資金調達では、MELTINが持っているのはどういう技術なのか、それがどのくらいの広がりやマーケットがありそうかといった点が見られていました。
シリーズAの資金調達の際には、事業面での転換、どの技術をどう出していくかの転換があったため、それに関することと、技術に対する外部からの反応が求められるようになりました。
具体的にそれまでデューデリジェンスは自分達の研究論文やロボット実機に基づいて行っていたのですが、シリーズA以降では、技術を医療機器に転用する際の医療機関側の期待やお医者さんから意見など、技術に対する専門家や利用者からの反応が実際どうであったかが聞かれるようになりました。
さらに、シリーズBの資金調達では、詳細な事業計画、具体的な数字が求められるようになりましたね。
数字は当然シードやシリーズAでも作っていましたが、精度は全然違います。一番最初、シード期に出していたのは、この機械を作るのにどれくらい原価がかかるか、それに対してどれくらい費用がかかるか、あとは人件費がどのくらいかというものでした。利益率も検索して調べて、通常ハードウェアならこのくらいだろうと試算して出していました。
しかし、ビジネスを組み立てるとなると、販売網はどうするか、代理店はどうするか、修理やサポートはどうするかなど、人件費以外の費用もかかってきます。資金調達のシリーズが進むに従って、その解像度がどんどん上がっていきました。
共に事業を成長させていくための株主との関係性
—投資をして頂いた後の株主の方々とは、どのようにコミュニケーションを取っていますか?
粕谷さん:
僕たちの場合、資金調達時の段階で長期的な関係性を作ることができるかを軸に投資家を探していました。単純に資金を提供するのではなく、MELTIN のビジョンにしっかり共感してサポート頂けるかを判断軸にしていましたね。
特にシード〜シリーズAのときは、資金面以外の支援をして頂けるかをこちらから聞いていました。図々しい話かもしれないですが、投資して終わりではなく、お金を出して頂いた上で、その次のステージに進めるように支援して頂ける先を求めていました。
結果、MELTINをサポート頂ける方に集まって頂くことができたので、時には厳しい意見ももらいますが、コミュニケーションはとりやすいと思っています。
ありがたいことに、個別に話した時でも、普段の株主総会や取締役会でも、「MELTIN の技術をどうやったら世界に実装できるか」を軸に、建設的な議論ができることが多いです。
MELTIN社のコーポレート・ガバナンス
—続いて、コーポレート・ガバナンスについて質問させてください。弊社ではFUNDOORという法務DXサービスを提供していることもあり、役会・総会についても起業家の方から「具体的に何を話せば良いのか」「どのように進行すれば良いのか」など、質問を頂くことが多くあります。是非、MELTIN社での取締役会の状況をお聞かせください。
粕谷さん:
最初は設置していなくて、途中から設置しました。基本的には会の進行は一般的な流れですね。招集通知の送付、決議内容の記載、決議報告など。コロナの前と後で明確に違うのは、リモート化したという点です。新型コロナウイルス蔓延前は対面で取締役会も行っていましたが、以降はリモート前提に変わりましたね。
ー法務手続きやコーポレート・ガバナンスはいつ頃から意識して、学ばれてきたのですか?
粕谷さん:
最初に必要な法務手続き周りは、SRIでも学びました。実務上どうワークフローに落とすのか、どのように人をアサインして回すのかというのは全然知見が無かったので、知見のある人を採用して運用していました。
ー最後の質問です。創業当時の自分がもし目の前にいたとして、資金調達やガバナンス周りで「これだけは絶対早く押さえておいた方が良いよ」とアドバイスするとしたら、どんなことがありますか?
粕谷さん:
それはもう、たくさんありますね(笑)
先ほど話したファンドの運用期限に対してどう事業戦略を作るか、バリュエーション感もアドバイスしたいですね。どういう会社がどれくらいの時価総額なのか。未上場株って、公開ラウンドの株価をいくらにすべきなのか、そのバリュエーション感が分かっていないと、結局どこかのタイミングでダウンラウンドせざるを得なくなったり、様々なことが起こるので。
そういう感覚は最初のうちに持っておきたかったという思いがあります。昨年はMELTINとしてはじめてプロダクトアウトをして会社としても次のステージに踏み込んでいったため、今後また資金調達を行って事業拡大をしていきたいと思います。
最後に
本記事では、メルティン MMI 代表取締役 粕谷さんの資金調達の実体験談をお届けしました。
ディープテック×ハードウェア事業ならではの資金調達の難しさがある上、シリーズが進むにつれ解像度の高い数字が求められる中で成長していくには、ビジョンに共感し資金面以外でも支援して頂ける株主との関係性が、大きな役割を果たしていました。
今回お話を伺った株式会社メルティン MMIの詳細は、こちらをご覧ください。
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詳細については、こちらをご覧ください。
執筆:FUNDOOR
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