【弁護士×連続起業家による対談】J-KISSでの資金調達について知る<後編>
クラウド経営管理ソフト「FUNDOOR」を展開する株式会社FUNDINNOでは、定期的に起業家向けセミナーを開催しています。前編に続き、「連続起業家がJ-KISSでの資金調達についてVC経験弁護に徹底的に聞く」オンラインセミナーの後編をお届けします。
目次:
・スタートアップはどれくらい法務にリソースを割いた方がいいのか?
・顧問弁護士を契約するタイミング
・弁護士側が嬉しいタスクのお願いの仕方
・こういう失敗がスタートアップには多い
・株主にした後は巻き戻しが難しい
・最後に
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スタートアップはどれくらい法務にリソースを割くべきか?
安田さん:資金調達の際は、基本的に専門家の方の知識が必要となります。その際、弁護士先生の方々とどのように連携やコミュニケーションを進めるとスムーズにいくのか、ずっと課題感を持っています。
交渉コストや調整コストというのは資金調達の際に考える重要ポイントにもなると学びました。そこで、せっかくの機会なので、具体的にどのような形でお付き合いして行くのがいいのかなと思い、このテーマを後半でお話させてください。
前提として、弁護士さん、法律事務所さんとの契約は、私はタイムチャージ形式でしかやったことがありません。そもそもどのようなパターンのお付き合いの仕方、契約の仕方があるのか。パターンが複数あるのか、是非、西口先生から教えていただきたいなと思っています。
西口さん:いくつかパターンがあって、一つはタイムチャージですね。稼働時間×1時間あたりの単価で報酬算定するものですね。単価の中央値はおそらく1時間あたり3〜4万になってくるので、弁護士としては働いた分だけもらえて損はない形式なんですけど、スタートアップとしてはいくらになるか分からないという怖さがある方式だと思います。
あとは定額方式です。例えばこういう案件ならいくらっていう形もあるでしょうし、顧問契約で月額いくらというのもあります。
安田さん:定額の場合も、月何時間を超えたらこうとかという、タイムチャージのようなパターンはよく見ます。会社サイドからすると、相談すればするほど金額が高くなるので、正直、相談するのをためらう気持ちが生まれます。
本当は相談すべきなんだけど、ちょっと相談するのは控えようとか。なので私も、気軽に相談できて、一定の金額ちゃんと払うというような契約ってすごくいいなと思います。そのような契約は相談していけば、みなさん聞いてくれるものなのでしょうか?
西口さん:これは正直、弁護士によっていろいろだと思うんですけど、少なくとも私はあんまりタイムチャージではやりたくないなっていうのがあります。弁護士は損しないですけど、スタートアップ側からすると怖い。例えば20分電話して1万円みたいな。気軽に頼んでもらいにくいっていうのがあるんですね。
そういう意味では私はむしろ、「大体これぐらいなら月額いくら」みたいにして、気軽にご相談してもらった方が私の方も会社全体のことを理解できますし、その方がいいかなと。
安田さん:スタートアップファーストで素晴らしいです。まとめとしては、タイムチャージ形式で契約している方が多いけど、西口先生のようなモデルでやって頂ける先生もいらっしゃると。なので、遠慮なく起業家さんからこういう形でできないかって相談して良いということですね?
西口さん:そうですね。
顧問弁護士を契約するタイミング
安田さん:私の場合、1回目の起業の時も今の会社も、最初から顧問弁護士さんと契約させてもらっていました。この点について、やっぱり顧問弁護士さんって最初から居てもらった方が良いのかとか、どのようなタイミングで顧問弁護士先生と契約した方が良いとかって、目安はございますか?
西口さん:日本だとある程度成長してから、「そろそろ顧問弁護士を探すか」という企業が多いイメージはあるんですけど、私がシリコンバレーにいた時に思ったのは、だいたいアメリカのスタートアップは最初から弁護士さんに相談しているところが多くて、日米でちょっと違うのかなと思っていて。やっぱり最初からいる方が絶対良いと思っています。
例えば複数名で起業する時だと、誰か辞めたときにその人が持っている株式をどうするのかという契約も必要ですし、やっぱり最初から気軽に聞ける弁護士さんがいた方が良いのかなと思ってますね。
安田さん:おそらくアメリカの方がリーガルリテラシーが高いのだと思います。それが弁護士さんが入るタイミングにも表れているんですね。
おすすめとしては、スタートアップは調達もするだろうし、株主が増えることを前提に顧問弁護士に早め相談した方が、トラブルは防げるんじゃなかろうかという感じですかね。
西口さん:そうですね。創業時から月何十万も弁護士費用を払う必要はないと思うので、ミニマムでいいと思うんですけど、やっぱり誰かしら探しておいた方がいいかなと思います。
弁護士側が嬉しいタスクのお願いの仕方
安田さん:具体的な契約実務の相談の仕方には様々なパターンがあると思います。私は、「この契約を結びたい」となった時は、タイムチャージだったという背景もあり、ドラフトをこちらで作成し、弁護士の方にお渡しして修正して頂く方法を採用していました。ただ、本当は最初からお願いした方が先生もやりやすいんじゃないかと思ったりとか。
正直ベースで、どのような仕事のお願いのされ方が効率的だったりとか、仕事をやりやすい等はございますか?
西口さん:そうですね。契約書ドラフトするというパターンで考えると、気を遣って「こちらでドラフト作成したので、レビューしてください」って持ってきてくれることあるんですが、完成度が高くないことが往々にしてあって、ほぼ一から直すことがあったりするので、そこはあらかじめ弁護士に聞いて、ポイントを伝えていただいて、弁護士の方でドラフトを作成するというやり方の方が早かったりします。
安田さん:やり方としては、企業側で勝手に考えてやるっていうより、とりあえず相談してみるという考え方が重要なのでしょうか?
西口さん:それはすごく重要です。まず頭出しをするというような進め方ですね。
安田さん:なるほど。中途半端にこっちで作ったものを修正する方が、逆に難しかったりするってことですね?
西口さん:そうなんですよね。どうしても修正するにも限界があって。修正しても、一から弁護士の方で作成したのと比べてクオリティーが下がるということも無くは無いので。
安田さん:かつスタートアップが頑張って作ってくれているから、弁護士としても、全否定するのもちょっと...みたいな(笑)。
であれば最初に進め方を相談して、オープンに相談して進めた方が良いということですね。
弁護士先生が私たちよりはるかに知識があるので、どう進めたら効率的か、先生方も分かっていることを前提に、早めに相談して、また、契約形態も相談して進めるという方法が良さそうだと感じました。
西口さん:そうですね。一言補足すると、契約に関して弁護士が詳しいからといって、「問題ないか見てください」と渡されると困るんですね。結局、契約はビジネス上の交渉事項などの決め事を形に落とし込むという作業なので、ビジネスサイドがどう考えていて、どういう取引で、どういう背景があって、どういう目的であるのかというのは、きっちり伝えていただいた方が良いかなと思います。
安田さん:なるほど。伝え方のポイントがあって、そこが重要ということですね。
少し、昔の経験を思い出しました。私、以前、外資系企業で働いた経験があります。その際、英文の契約書で実務を進めていた経験があって、米国の弁護士とお仕事をさせて頂いておりました。彼らは、ビジネスタームとリーガルタームで明確に分けて、「ビジネスタームの責任者はこっちで、リーガルタームは弁護士サイドがケア」という分け方でした。
リーガルタームの書きぶりとか、こういう表現で問題ないかを当然チェックしてくれたとしても、ビジネスタームについては、ビジネスチームがしっかり責任を持っていましたね。
スタートアップも最初はCEOが契約を見る場合が多いと思います。まずは、CEOがビジネス視点で、「ここは抑えたい」というポイントを弁護士に伝えていただいて、それを実現できるようにを作ってもらう意識が重要ってことですね。
西口さん:そうですね。「こういうリスクがあると思ってるんで、これ契約で防げませんか?」とか、そういうのはぜひ言って欲しいですね。
安田さん:なるほど、勉強になります。慣れとか経験も必要だと感じました。
こういう失敗がスタートアップには多い
安田さん:法務面でスタートアップに多い失敗について西口先生に事例を可能な範囲で聞いてみたいです。
西口さん:資金調達関係でよくあるのは、スケジュール感をちゃんと理解されてないことがあります。優先株式の調達で、ベンチャーキャピタルからタームシートが出てきた時に、「来週もう契約締結できますか?」って言われたりすることがあります。
その辺のスケジュール感をきっちり把握する必要があります。私はできるだけ流れを説明するようにしてますけど、スタートアップ側もあらかじめ、弁護士にも確認して、全体のスケジュール感を把握するようにした方がいいかなと思います。
安田さん:なるほど。資金調達はキャッシュ残との兼ね合いで動いているから、起業家側は早めに欲しいって思って、動いている人が多いと思います。
資金調達自体、起業家マインドとしては、概ねバリューと金額が合意できたら仕事が終わったような気持ちになっちゃうんですよね…。その際の契約ワークは、さくっとやりたいと思って、多分そういう無理なスケジュールを引きがちなのはあるかもしれないです…。
種類株をやろうとしたら1ヶ月でも足りるかどうかみたいな感覚があるんですけど、やはり、それなりに時間が必要ですよね?
西口さん:おっしゃる通り、タームシートが出てから2ヶ月は見た方がいいのかな。
安田さん:ここの時間感覚は重要ですね。種類株やるときはタームシート出てから2か月ぐらいはちゃんと見ておきましょうと。
西口さん:その時間がないと、向こうから出てきたのをそのまま飲むしかなくなって、すごく交渉力が下がるので。
安田さん:資金調達は、ちゃんと6ヶ月前から余裕をもって動けって言われるのは、やっぱり契約のやり取りだけで2か月は必ずかかると見といたほうが良いということなんだと感じました。
そう考えると、J-KISSはテンプレート通りであれば、2ヶ月が1ヶ月、1ヶ月が2週間に検討期間が短くなるというイメージなので、メリットが大きいなと。J-KISSを使う理由も理解できます。
西口さん:やっぱり全然違います。J-KISSのテンプレートがあるので、契約書が1日とかで出てきて、交渉も早くて1週間くらいでできますね。
安田さん:全然違いますね!こうして、具体的なスケジュールとか必要工数を聞くだけで なぜJ-KISSが流行っているのか理解できます。
株主にした後は巻き戻しが難しい
安田さん:他の事例で、何かございますか?
西口さん:スタートアップがJ-KISSで発行するという案件で危なかったのが、個人のエンジェル投資家から調達しようとしてて、よく聞くとちょっと反社会的勢力(以下、反社)っぽい人だったってことがあって。やってるビジネスがグレーっぽいという話が出てきて、「それはやめた方がいい」と止めたことがあります。
一度、株主にしてしまうと巻き戻しがすごく難しいので、本当に信用できる人からだけ調達するよう、注意が必要です。
安田さん:株の調達は自分が本当に知ってる人だとしても甘い話、そもそも、甘いのか甘くないのか良く分からないような話が出てきますよね。そういう時、とにかく気をつけよう!ということですね。
西口さん:そうですね。誰からの紹介なのかとか、どういう経歴なのかをしっかり調べないと危ないと思います。
安田さん:チェックポイントとしては経歴とか、その人が今やっているビジネスとかが重要ということですね。ちょっとグレーだったら基本的に辞めておいた方がいいって事でしょうか?
西口さん:グレーなビジネスは結構、反社とのつながりがあったりということもあるので注意が必要かなと思います。
安田さん:そういうパターンは顧問弁護士に「この人どうでしょう」とお願いすると調べてくれるものなのでしょうか?
西口さん:正直、きっちりとした反社リストのようなものがあるわけじゃないので、そこは難しいんですね。なのでリファレンスチェックとか、他のスタートアップに聞いてみるとか、そこは自分で信頼できる人に相談するしかないと思います。
安田さん:なるほどですね。承知しました。
最後に
資金調達を行う際、専門家である弁護士の知恵を借りることは不可欠であり、その上で弁護士の方と上手く連携したいと考える起業家は多いはずです。西口さんがおっしゃられていた通り、契約や業務の流れについて相談せずに進めるのではなく、弁護士の方に会社側の意向を伝えた上で、相談して一緒に決めることが大事です。時間に余裕を持って、弁護士の方に連絡するように心がけましょう。
■登壇者プロフィール
西口 健太(にしぐち・けんた)氏
弁護士・ニューヨーク州弁護士
(梅田総合法律事務所パートナー弁護士)
訴訟を含めた企業法務全般を取り扱うも、世界に挑戦できる
スタートアップの支援に力を入れるため、米国西海岸のロースクールへ留学。
その後、米国シリコンバレーのアクセラレーター/ベンチャーキャピタルであるPlug and Playに出向し、米国スタートアップへの投資案件、同社の日本における投資スキームの検討・立案などに携わる。また、米国法律事務所やイスラエルのベンチャーキャピタルにも出向し、スタートアップへの投資案件に従事。
現在では、国際案件への対応も含め日本で弁護士として活躍。
スタートアップ側及びベンチャーキャピタル・CVC側の双方で、日本及び米国等海外における、優先株式、J-KISS、SAFEなどによるエクイティ・ファイナンス案件に30件以上携わる。
スタートアップの顧問弁護士として法務機能のアウトソーシングを含めた法的支援・ビジネス促進も行っている。
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安田 瑞希(やすだ・みずき)氏
フレンズ株式会社 代表取締役
2003年明治大学農学部卒。公認会計士。
植物工場ベンチャーである(株)ファームシップを創業し、年間数十億の収益を生む会社へとグロースさせた。事業戦略、オペレーション、海外事業からファイナンスに至るまで幅広い領域をリードした。
その後シリアルアントレプレナーとしてフレンズを創業。
フレンズでは、プロジェクトマネジメントルーツ「インチーム」をSaaS事業として展開すると共に、グローバルリソースを活用した事業開発・エンジニアリング支援事業を行っている。
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執筆:FUNDOOR
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