起業家が “やってはいけない” ファイナンスと経営戦略「資本政策とコンプライアンス編」イベントレポート

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2021年3月26日、株式会社日本クラウドキャピタル主催のオンラインセミナー「IPOの現場を熟知したコンサルタントが語る 起業家が “やってはいけない” ファイナンスと経営戦略 PART2 資本政策とコンプライアンス編」が開催されました。

スタートアップ企業にとって一つの通過点となる「IPO」。バリュエーションや中期経営計画策定、組織作りやコンプライアンスなど、ぞれぞれに”やっていはいけない”ことが存在します。一体どんなことをしてはいけないのか、多角的な経験や知識をもったプロからの助言をもらえる機会は少ないかもしれません。

そこで、今回はIPO支援業務に特化して業務を展開し、様々なIPOの現場を経験されてきた、金井公認会計士事務所 代表 金井重高氏を講師にお招きし、上場を目指すスタートアップ起業家が押さえておくべきポイントを伺いました。

また、コンサルタントとして大手上場企業からベンチャー企業まで幅広い分野でのサポートをされている、株式会社アクリアの小野将生氏にもご登壇いただいています。

上場時の時価総額のイメージ

中期経営計画を策定して、コーポレート・ストーリーの中で不足する資金額と不足時期の目安を把握したら、次は資本政策を作っていきます。ただ、その前段階として、通過点の IPO で調達できる資本のイメージ、中間ゴールのイメージを明確に持っていないと、途中の段階でどのような時価、パーセンテージでという部分が見えません。そこで、上場時の時価総額のイメージを明確に持っておいていただきたいと思います。

上場時のバリュエーション(値付け)

上場時のバリュエーション(値付け)の方法は、「時価総額=予想当期純利益×同業他社平均PER×IPOディスカウント(20〜30%)」です。

例えば、上場申請をした日の利益水準が5億円を見込んでいる場合に、同業他社(似ているビジネスモデル、同業の会社)の平均 PER が20倍という状況だと、「5億円×20倍」となり時価総額は「100億円」と計算できます。実際に公開する際は、IPOディスカウントという割引が行われるため、仮に20%だとしたら、公開価格といわれる時価総額は「80億円」となります。

SaaS型の場合は「予想売上高×PSR×IPOディスカウント」の場合もあります。 PSR (売上高と株価の関係の倍率)は市場平均で7~15倍程度です。例えば、予想売上高に対して PER10倍 として、IPOディスカウントをかけて計算していく方法もあります。

バリュエーションに関するレンジの目線を持っておく

バリュエーションに関するレンジの目線を持つことは重要です。資本政策の前提となるのはもちろんですが、中期経営計画の説得力が上がります。もしスタートアップ企業で、新しいビジネスで同業者がいないという場合でも、ビジネスモデルが似ている会社を研究して、どのような評価を市場から受けているかを把握しておきましょう。

特に「予想当期純利益×PER」から他社を分析すると見えてくることがあります。例えば、予想当期純利益5億円でPER30倍がついて時価総額が150億円になっているのか、PER20倍で100億円なのかを見ておくのは重要です。

必要な指標分析

必要な指標分析は2つあります。

まず1つ目は「売上高成長率(CAGR)」です。ベンチマークとする会社と自社との差異を確認して、何を埋めるべきなのかを考えます。

自社の5年後、10年後、上場したときの姿に近いイメージの会社を同業他社の中から見つけて、ベンチマークになる会社として設定します。あるいは理想となる会社をピックアップして比較対象とします。そして、自社の売上高成長率と比較して、なぜ伸びているのかを分析し、自社のSWOT分析を行い強みや弱みを確認してみましょう。

2つ目は「粗利率と営業利益率」です。例えば、自社粗利率が40%で、ベンチマークにした会社は50%の場合、なぜ10%違うのかを分析します。具体的には、ベンチマークにした会社の調達力が優れていたり、コストを削減する工夫ができていたりします。

反対に自社の利益率の方が高い場合もあり、その場合は自社の強みが分かります。さまざまな角度から粗利率や営業利益率、売上高成長率を比較して、自社に足りない部分を分析してみることが大切です。

5年後の姿としてベンチマークにした会社があることで、自社の中期経営計画を到達しうる未来として、第三者にも説明がしやすくなり、説得力が上がります。

ビジネスモデルやKPIが似ている会社は、プロダクトの内容が違っても、管理する指標はある程度共通している部分があると思います。そういった会社を見て、計画の説得力を上げるとともに、今その会社が市場でどんな評価を受けているのかを一つのゴール感として設定していただきたいです。

実際の計画策定の現場について(小野氏)

同業がいないというスタートアップ企業の社長さんや、これからサービスをローンチするから何をベンチマークにしていいかわからない、というステータスの方が多くいらっしゃいます。ただ、計画に説得力を持たせるために、ベンチマークはどうしても必要になると話をしています。

計画そのものの説得力という観点で、具体的な例としてSaaS系の企業様の計画を立てるにあたって、トップラインをどうやって作っていくかという時に、市場規模などを調べて、競合になる企業をピックアップするところからスタートします。

そこからKPI分解をしていった時に、売上の増加要因が、会員数の増加だとすると、それに対して会社の戦略、伸ばし方や、解約率の推移からもベンチマークになる会社を設定します。

きちんと調べてもらって、合意した上でベンチマークを決めます。それに合わせて、戦略が変わるため、その部分を社長と一緒に行うことが大切です。具体的なビジョンを具体的な計画に落とし込むと、計画を外に出すときにも説得力がありますよね。きちんと説明できるように計画を作るというところは意識をしています。

そういった意味でベンチマークをきちんと設定されている方は、あまり多くない印象があるため、まずは手を付けていただけると良いと思っています。

当面の大きな中間ゴールとしてIPOを設定する

5年後、10年後の姿として見えている同業他社さんが、例えば200億円の時価総額がついているとします。それを自社のIPO時の時価総額だとみなしたときに、ここから資本計画を逆算していくと考えます。

5年後あるいは10年後に200億円を達成すると考えたときに、そのステップとして仮にシリーズA、シリーズBがあるとします。まずシリーズAは時価総額10億円を前提にして、まずは10億円の5%なので5000万円調達しますという作り方をしていきます。

シリーズBではそれなりにビジネスが立ち上がって見えてきているので、50億円ぐらいで調達します。場合によってはシリーズC、Dと繋げていって200億円が中間のゴールとなります。

その都度ベンチマークをする会社があるといいでしょう。例えば、上場直後の会社をIPO時のベンチマークとしておく、その上で長期的なビジョンとして時価総額200億円の会社をベンチマークとする。上場自体も資金調達なので、それを中期経営計画上の戦略に当て込んでいって次のベンチマークを目指していきます。

このように、あくまでシリーズのどこかのポイントとして逆算していくと、どのタイミングでどのくらいの時価というのは、ある程度の中期経営計画を線でつないでいけるイメージになるでしょう。

このゴール感は間違った設定にしないよう、身の丈にあったPERで算定することが大切です。例えば、日経平均225に選定されるような会社の平均 PER は15倍前後でずっと推移しています。また、S&P500とかアメリカ市場の平均PERは20~25倍ぐらいです。世界に冠たる成長企業「GAFA」ですら、PERは約20倍~30倍ぐらいです。Amazon だけ80~100倍と異常値のような数値になっています。目標はよくて30倍ぐらいまでという感覚を持っておいた方が良いと思います。

資本政策の策定

具体的に資金政策の策定ですが、資本政策は必要な資金を調達するために中期経営計画の戦略実行のために経営株主(オーナー)の持分を削る行為です。オーナーが100%持っている状態から、5%、10%と削っていくようになります。

 中期経営計画を実現するために削っていくものなので、削らないで済むのだったら削らない方がいいです。実際にほぼ100%オーナーが持った状態で、30%ぐらい売り出しと公募で希薄化させて上場させていく会社もあります。それが理想的ではありますが、なかなか難しいのではないでしょうか。

上場時に議決権の3分の2以上を経営層が保有しているのが理想

 一定の目安として、上場時に議決権の3分の2以上を経営層が保有する状態が望ましいです。なぜなら、成長過程にある会社が上場時に経営支配権を握れていないと、経営の安定性がダウンして、成長が阻害されてしまうからです。

時価総額100億円くらいの場合は、資金力に余裕のある会社であれば買収資金を用意できる会社も多いので敵対的買収をかけられる可能性や、あるいは大株主として10%、20%を持って経営に口を出してくるような事が当然起こりえます。そこで、株主総会特別決議を単独で決議できる3分の2以上を持っている状態が望ましいといえます。

「経営権の確保」のプライオリティが下がる場合もある

ただ、「経営権の確保」は絶対ではありません。さまざまな会社の状況があるので、中期経営計画上、あるいはそのコーポレートストーリー上、経営権の確保のプライオリティは下がります。

例えば、成長可能性があるものの黒字化に極めて時間がかかるような場合や、ネットワークの外部性が強く働くような業種、業態で、先にシェアを取っていかないとなかなか競合に勝てないものもあるでしょう。

最近では、C2Cのメルカリとフリル、スマートニュースとグノシーのように、先に知名度を上げてシェアを取ることで、生き残るという構造のビジネスやマーケットもあります。スピードが命だったりするので、先行投資、広告宣伝を最優先にする必要があるのです。

中期経営計画の実行に有益な先から調達していく

中期経営計画の戦略の実行に有益な先から調達していくことを考えます。例えば、シナジーを生むようなアライアンス先、顧客紹介してくれる技術提携を行いたい事業会社、人材を紹介したりアドバイスを提供してくれたりするようなVCなど、基本的にはビジョンとミッションに共感してくれる先から調達していくのが理想系だと考えています。

資本政策でやってはいけないこと

「資本政策の策定でやってはいけないこと」は、以下の通りです。

・10%超を単独の株主に割り当てる(強力な株主権を与える)

・ダウンバリュエーションによる調達(既存株主の信頼失墜)

・極端に不利な条項を含む投資契約の締結(機動的な意思決定ができなくなる、資本政策の柔軟性が阻害される等)

・極端なハイ・バリュエーションでの調達(次回調達が困難となる可能性など、資本政策の柔軟性を阻害する)

・経営層の持ち株比率の極端な低下(社長が5%も保有していない状態等)

・属性確認(反社チェック)をしない割当

・ストック・オプション(潜在株式)を大量に(希薄化比率15%以上)割当てる

・経営層への無計画な有利発行

・株式に譲渡制限をつけない

まず、1つ目の10%超という数字には、会社法上の株主権として株主提案権のようなものがあります。例えば、経営者が変わったときに経営方針が変わる可能性があります。最初のビジョンやミッションに共感してくれていた株主が、経営陣が変わって戦略に口を出すケースもあります。

2つ目に、ダウンバリュエーション(ダウンラウンド)の調達ですが、例えば10億円、50億円と到達した後に、30億円で時価総額を調達するというシチュエーションです。この場合、当然50億円で調達をした方々が納得できませんよね。4つ目の極端なハイバリエーションの調達とも繋がってきますが、資金を出す側の利害関係を押さえておいた方がいいでしょう。

VCの意思決定の方法や、お金を集めて投資をして株式売却益でお金を出してくれた方に分配していくという考え方などもある程度を押さえておきつつ、みんなが幸せになるような形で資金を調達していくような設計が、結果的にうまくいくことが多いと感じています。

例えば、アーリーステージの会社に投資する時は、VCは利回り(IRR)で60~80%、ミドルステージで40~60%、レイターステージで20~40%の利回りを求めます。それはお金を出してくれる方々に10~20%程度で運用して分配する約束をしているからです。

ゴール設定をしっかりできていない状況で、ハイバリエーションで調達してしまったりするとダウンラウンドになり、次回の調達ができなくなるという事態を招いてしまうので、注意しましょう。

最初からある程度ストーリーを立てた上でそれぞれの政策を立てていくことが大事です。

コンプライアンス

コンプライアンスが大切なのは当然のことですが、上場審査においてコンプライアンス違反が致命傷となるケースがあります。各種法規の遵守を徹底してください。

上場準備中の会社が上場を断念せざるを得ない時の理由で最も多いのが「業績」なのですが、実は次に多いのが「コンプライアンス違反」です。

特に重篤な事例として、以下のものがあります。

・主要取引先が反社/反市

・株主/役職員に反社/反市構成員がいる

・主要事業に係る行政処分/許認可取消等

・税務調査における重加算税

・代表者のハラスメント訴訟(敗訴)

・重大な労務訴訟(敗訴)

まず反社については、基本的には金融機関は教えてくれないと考えましょう。制度的に名指しで教えてしまうと危険ということもあり、社内ルールで決められていることも多いです。自社でアンテナを立てて、帝国データバンクや商工リサーチ等の調査会社と契約して調べていくのが上場準備の後半戦では正解です。最初からは難しい場合でも、Web検索で代表者と会社名で検索して確認しましょう。

また注意すべきなのが、税務調査における重加算税です。重加算税は、会社が粉飾決算をしていたことを国が認定するようなものです。悪気がなくて税務調査時に対応を間違えて重加算税を課せられるというケースもあります。この履歴が消えるまでの5年は上場申請できなくなってしまいます。 

ハラスメント、労務訴訟も事例としては、上場承認が下りてから東京証券取引所に投書がきて発覚、上場延期になることがかなり多いです。誠実な経営をしていきましょう。

知的財産に関すること

知的財産権について、特許権や肖像権などを取りに行くのにはコストがかかりますが、やっておいた方がいいでしょう。どうしても早い者勝ちの部分があるので、サービスの名称やプロダクトの名称、会社名というような大事な権利については、きちんと守っていきましょう。

認知度が上がった段階で、先に取られてしまう可能性もあるため、早めの段階から考えておくと安心です。逆に商標権侵害をしてしまうようなケースもあるため注意しましょう。先にビジネスを始めていたのに、プロダクト名を変更することになり遅れが出てしまったというケースもあります。

会社法に則した株主総会運営

スタートアップ企業だと総会議事録を作っていない場合も多いかもしれません。ただ、資本政策とも絡めたところで、例えば無秩序な第三者割当増資をしていて、それが株主総会決議を適切に経ていなくて、後で訴訟事例となることもあります。

例えば、半年以内に株価5万円で第三割をして、1万円で第三割をして、その後10万円で第三割をしてというような無秩序な株式発行をしているとします。そのときに適切に会社法上のルールを守らず、株主総会も開催せず、議事録も残されていないという、決議が適切に行われていない状況であれば、当然代表訴訟になる可能性があります。そうなると会社の経営がストップしてしまいますので注意が必要です。

短期間(半年以内)で50名以上に投資勧誘を行う場合

短期間で50名以上に投資勧誘を行ってしまうと、金商法違反になる可能性があります。この行為は金商法の「募集」の概念に該当してしまうので「有価証券届出書」の届出書提出義務が生じます。そうなると、監査法人の監査が必要になり、一回有価証券届出書を提出してしまうと、その後も継続的に有価証券報告書を出し続けなければなりません。

また、声をかけただけで勧誘という概念には該当してしまうので注意しましょう。例えば、YouTubeで勧誘する動画を投稿しただけでも金商法違反となってしまいます。

2021年のIPO市場状況

IPO を市場は非常に活況で、2021年度も100社超が上場と言われています。証券会社の状況も、ヒアリングする限りでは元気のある会社が多く、監査法人については大手が受けてくれないというトレンドになっています。今後中小監査法人が、最初の上場を手がけて時価総額が大きくなってきたら、四大監査法人に移るという流れになってきそうです。

市場区分の変更については、プライムがグローバルに戦える会社、グロースが成長性のある会社、スタンダードがそれ以外というように明確にコンセプトが分かれるようになっています。グーロス市場が今のマザーズ市場なのですが、このグロース市場に上場すると、毎年成長可能性に関する説明資料を出さなければならないという制度が決まっています。

事業計画を出した上で「うちの会社がこんなに成長します」と毎年プレゼンテーションしなくてはならない市場になっているため、中期経営計画を今のうちから作っていくのは、上場後を見据えた上でも大事だと思っています。

◆関連リンク

金井公認会計士事務所

https://andb.co.jp/partners/kanai.html

株式会社アクリア

https://www.accrea.co.jp/
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